山に二つの影あり

一は陽に向かい道を拓く者
一は陰に潜み道を閉ざす者

里の者はこれを畏れ
山津見 山影と呼びならわす

二柱は同じ胎より生まれし双子なり
山を守る志は同じくして
その手立てのみ異なる

山津見は言う
人に道を示せば 人は山を愛するだろう

山影は言う
人に道を示せば 人は山を喰らうだろう

山津見は山の恵みを人に与え
山影は山の厳しさをもって人を拒んだ

かつて人は山を畏れ 敬い
入る前には祈り 出る時には感謝した
二柱は穏やかに 山を守っていた

しかしやがて人は
山から取るのみで返すことを忘れ
山を踏み 汚し 顧みなくなった

山に澱がたまり
山影は狂い始めた

山津見は嘆き 山影は怒った

山影は言う
人を還せ 無知なる魂を山に還せ
さすれば澱はわずかに薄れよう

山津見は言う
それは治癒ではない ただの痛み止めだ
人が変わらねば 山は死ぬ

されど山は日ごとに病み
山津見もまた 止めることができなかった

二柱は一つの賭けに出た

山御守を作った

人に知恵を授ける守り
正しき知識をもって山に入れば
人は生きて帰れるように

山津見はこれで人が学ぶことを信じた
山影はどうせ見向きもされぬと嘲った

山御守は人の世に降ろされた

手に取る者は 果たして現れるだろうか

山津見は待っている
山影は見ている

山と人の結び目は
まだ 解かれてはいない